会社を早めにあがり、東中野の中村外科医院に行った。
ギラギラと太陽が照りつける暑い夕方を覚えている。職場のあった西新宿からゆっくり歩いた。怖かった。まだなにも診断されていないのに逃げ出したくなった。今日のことを、あとでどんなふうに思い出すんだろう?と、ぼんやり考えながら歩いた。
中村外科医院はかかりつけのよしの女性診療所からの紹介で、こちらも女の先生だった。平日夕方のためかがらんとしていて、検査はすぐに始まった。マンモグラフィと超音波検査、触診。診断はすぐに出るとこのことで、待合室で少しだけ待ったろうか。
あまり覚えてない気もするし、ものすごく覚えてる気もする。とにかく怖かった。
がんかもしれないのだから。
しばらくして診察室に呼ばれた。
マンモグラフィの画像は乳腺のためもともと白っぽいのだけど、やはり左胸の下は真っ白なかたまりが写っているように見える。
「大きな病院を紹介します」と中村先生が言った。どういうことなんだろう…この画像ではわからないということなのか?病院は住まい近くいいか、職場近くがいいか、と先生は聞いてきた。住まい近くだと大橋病院、職場近くだと東京医大になるという。通院しやすいほうがよいとのことで、通勤定期で行ける東京医大を選んだ。通院?検査に行くだけじゃないんだろうか?不安で胸がいっぱいになった。
先生はすぐ東京医大に電話してくれて、初診の外来がちょうど明日の土曜に受けられるとわかった。「え、明日はちょっと用事が」と私。急に明日なんてムリだ。ここに来るのもやっとだったのに。でも先生は続けた「だめよ、明日行きなさい。行って、そんなもの早くとっちゃいなさい」
そんなものって、がん…?頭がしめつけられるようだった。「はい、明日行きます。お願いします」と答えるほかなかった。
紹介状を受け取って、泣きながら帰った。